私があこがれていた「人類の英知を集めた」はずの原発は、エンジニアリングという観点から見て「とうてい実用化のレベルに至っていない未熟な技術」だったのである。

(1)システムとしての安定性に欠ける原発

原子炉には、放射性物質を外界から遮断する役目を果たすの5つの壁があるが、原発の致命的な欠陥は、この5つの壁が正常時にはうまく働いているが、異常時には次々に壊れて行くという点である。それも、「冷却ポンプの停止」というたった一つの事象が、その引き金になるのである。

1. ポンプが止まると、水が循環しなくなるので、水の温度が上昇し、しまいには蒸発してして水位がさがり、燃料が空焚き状態になり、ますます温度が上がる
2. 温度がある程度以上になると、核燃料を覆っている被覆(第二の壁)が破損し、ペレット(第一の壁)の形に固められた核燃料がが溶融する。
3. この時に、被覆に用いられているジルコニウムが水蒸気と反応して水素を作る。
溶融した燃料が圧力容器(第三の壁)の底にたまり、熱でそれを溶かしたり、弱い部分に穴をあけてしまう。
4. この状態になると、第四の壁である格納容器の中の圧力が上昇する。そのままにしておくと圧力で破損したりリークを起こす。
5. 格納容器の破損を避けるためには、ベントを開けて圧力を下げるしかないが、ベントを開けると放射能物質が外にでてしまう。
6. さらに、この際に水素が空気中の酸素と混ざり合い水素爆発をおこし、第5の壁である建屋を壊す可能性がある。
さらにこの状態が続くと、溶融した燃料が格納容器の下に溜まり、最後にはそれをも溶かして外に出て、大量の放射性物質を周辺にまき散らす事になる。

福島第一では、まさにこの通りのことが起こりつつあるわけだが、注目すべき点は、これは福島第一に限った話ではなく、世界中のすべての原子炉が「冷却水のポンプ」を停止しただけでほぼ同じような状態に陥るという欠点を持っているという点だ。つまり、これは今起こっている問題は、たまたま福島第一に起こってしまった事象ではなく、冷却水さえ止まればどの原発でも起こるごくあたりまえの事象なのだ。

原発を設計したエンジニアたちもその欠点は良く認識していたようで、原子炉には必ず、冷却装置側にいくつかのバックアップが用意されている。本来ならば「万が一冷却水による冷却ができなくなっても安定して止まるようなシステム」が作れるまでは実用化すべきではなかったのだが、「冷却水さえなんとかできれば最悪の事態は避けられる」という理論で突っ走ってしまったのだと予想できる。

(2)クリーンではない原発

原発のもうひとつの問題は放射性廃棄物である。日本の原発は、毎年1000トンもの放射性廃棄物を生み出すが、これが放射能を出す上に、使用後も数年間熱を出し続けるというやっかいなしろもの。しばらくはプールに入れて冷やしておかないと上に書いたような溶融を起こして放射性物質をまき散らすし、熱が収まったあとも何十年も(場合によっては永遠に)、人が近づけない地中深くに埋めておかなければ危なくてしかたがないという危険物である。

原子力に手を染めたどの国もこの放射性廃棄物には頭を悩ましているというのが実情だが、日本の場合、それをさらに分かりにくくしているのが「核のリサイクル」という仕組み。もともとは、再処理場で使用済み燃料からウランの燃えかすであるプルトニウムを抽出し、それを高速増殖炉で活用することにより同じ量のウランから取り出せるエネルギーを何十倍にもしようという試みだったのだが、これはまだ実用段階にはほど遠く、現状では再処理の結果大量に作られることになったプルトニウムをしかたなく既存の軽水炉で燃やしているのである(これをプルサーマルと呼ぶ)。一見リサイクルの形をとってはいるが、本来の高速増殖炉と比べれば資源の有効利用とは呼べない上に、リサイクルの仮定で生じる放射性廃棄物の問題も解決できておらず、単に問題を先送りにしている、というのが現状である。

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長くなってしまったが、エンジニアの眼から見て「今の原発は危険すぎる」というのが私の導き出した結論である。冷却システムが止まっただけで炉心溶融を起こし、5つの壁が簡単に破られてしまうようなシステムを安全とは呼べない。「どんな津波が来ても冷却システムが止まらないようにしよう、そうすれば炉心溶融は起こらない」という発想そのものが間違いである。現に福島第一で起こったように、絶対ということはありえないのだ。万が一冷却システムが完全に止まってしまっても暴走しないように作るのがエンジニアの仕事である。それをお怠り、今の形の原発の運用を続けて行けば、どんなに地震対策や津波対策を施そうと、再び同じような事故は必ず起こる。

どうしても日本で原発をやりたいのであれば、「冷却システムが止まっても、電源系統がすべて止まっても、自然に冷えて安定して行くようなシステム」を実現してから実用化すべきである。福島第一での原発事故は、こんな簡単に炉心溶融を起こす不安定なシステムをそのまま実用化してしまったから生じた人災なのである。