原子力発電のコストってどうなってるの?
小林 この間、夜通し討論する某テレビ番組で原発の問題をやっていて眠い目を擦って観ていたんですが、そこに集まっていたパネリストの人たちに、僕はもう少し期待を持って観ていた。
飯田 そうですよね、あれはかなり期待はずれでしたね(笑)。
小林 大体いつも、反対側の意見を持っている人たちも並べるんですけれど、なんだかんだ言って擁護している人たちがほとんどでしたよね。
飯田 基本的に、知識不足でしたね。全体的な議論の水準があまりにも低すぎた。
小林 原発はコストが安いという面が見逃せないという話をみんなが言っているんですが、その辺はどうなんでしょうか?
飯田 原子力のコストは、まさに致命的な部分です。これには、2つポイントがあります。
まず原子力はコスト以前にリスクが問題なのです。
これは安全性のリスクよりもむしろ、金融投資リスクなんです。
実は世界的には、特に金融機関が原子力には怖くて投資や融資ができないというトレンドがはっきりあります。
今回の福島原発の事故があって、アメリカで原子力の計画をしていたNRGエナジーも、先週、原発増設計画をキャンセルしました。また日本でも、東芝と東電が国際協力銀行と組んで融資をしようとしていたサウステキサスという原子力発電所は、いわゆる2基の原発を当初52億ドル、1ドル100円とすると約5200億円で5年前に計画したところ、今の見通しは180億ドル・約1兆8000万円にまで高騰して、アメリカの投資家がみんな逃げてしまったんです。
フィンランドのオルキルオト原子力発電所でも、当初32憶ユーロ、約4000億円で原発を1基作り始めたところ、どんどん追加費用がかさんで、今や1兆5000億円くらいになっているんです。しかも、遅延に次ぐ遅延で、いつ完成するか分からない。そういった巨額投資で長期間回収しなくてはいけないものは、ものすごくリスクがあるじゃないですか。
ところが風力発電は、計画の段階から数えても2年ぐらいで完成するんですね。
そうすると、融資を決めて2年後には投資回収ができて、1基数億円で作れるので比較的小規模で分散投資できる。そういうマネーのロジックで、完全に自然エネルギーの方が勝っているんですね。
そして日本では「安い」と信じられている原子力は、ここ数年、新設コストが急激に高くなっています。反対に太陽光発電はコストが毎年10%ずつ下がっているので、去年には原発のコストは太陽光を逆転したというデータがあるくらいです。
日本の原子力発電所は実はコストが高いです。多分、そのテレビ番組でも言われた国の出したコストは、机上の空論で出した数字で現実の検証のないデータです。「根拠を出せ」と言っても、黒塗りで出してくるんですね。
日本では、そういういい加減なデータが平気で通用しているのが困ったものです。コストの話を整理すると、発電コスト以前に投資リスクを考えなくてはいけない。
日本の場合はそこが電力の独占で守られているんです。そして、もうひとつの重要な問題は不公平な建設仮勘定という仕組み。これは、原発を作り始めたら電気料金からコストを回収できるという、常識では有り得ない制度です。
小林 それは、有り得ないんですか?
飯田 普通の社会で考えていくと、商品を届ける前に工場を作り始めたから先に利用料金をもらえないか、という話ですから。
昔は確かにアメリカでも同じような制度があったんですが、自由化された市場では有り得ない話です。つまり作曲を始めたから、まだ曲はできていないけれどiTunesで料金だけ取りますよ、みたいなことが通用しているわけですよね。
こういった独占市場と日本独自の政策で、いくら投資リスクが大きくても取りあえずは守られているんです。今回の福島の事故で、これからどうなるかは分かりませんけれどね。
自分の投資リスクは自分で取れ、ということですよね。
世の中はみんなそうしているわけですから。
また今回の事故ではっきりしているのは、原子力損害賠償制度で支払われる、原子力1基あたりわずか1200億円しかない保険金では、カバーできないほどの巨額の損害が出るだろうということです。しかも、その保険金すら、地震という天災だから支払われない可能性が高い。本来なら、どんな損害が発生しても、電力会社はそれを払えるだけの保険に入るべきだ、という議論が前々からあります。
試算の一つとして、もしフランスの原子力発電所がすべての事故の際に青天井に保険金を支払われる保険に入ったとしたら、支払うべき保険料で電気料金が3倍になるという試算がされているんですね。そこまで考えると、日本の役人が根拠もなく計算した原発のコストがいくら安くても、まったく意味がないという話ですよね。
少なくとも、今の日本の原発は、国民が損害賠償を被ることを人質に取って運転されているということなんです。本来コストのことを言うのであれば、国民の税金に暗黙に頼った原子力ではなくて、「再びこんな事故が起きたとしても、その損害は全額保険でカバーできる保険に入りなさいよ」というのが筋だと思うんですね。