飯田 もっと深刻な現実があります。ちょっと専門的なことなんですけれど、こういう原子力機器を作る時に、その素材や成分や溶接の仕方や、その後の検査の仕方まで設計ルールのガイドラインがあるのですが、それは、アメリカではアメリカ機械学会(ASME、アスメ)という団体がオープンソースで作るんですね。みんなの知恵を出し合った、壮大な知の体系があるんです。だけど日本ではどうしているかというと、ASMEが作ったそのガイドラインをヨコからタテに訳しただけのものが、経産省の所管する電気事業法の下の、法律ですらない告示にぶら下がっているわけです。

たぶん、最初に一生懸命取り組み始めた1960年代は、東電も関電も国もすごく真剣にやったんだと私は推察するんですが。それがだんだん日常化・常態化して、表層的な官僚主義がはびこってしまった。 国の検査官など、そもそも経験してないから、見るところすらわからない。そういう官僚主義の繰り返しがどんどん膿のようにたまっていって、ふと気づくと、原子力ムラは本当に空っぽで中身がうつろなってしまったんですね。

だから、日本には輸出できる原子力のエンジニアパッケージなどひとつもありません。優秀な技術からは程遠いのです。原子力輸出と意気込んでも、日本は下請けとして参加できるに過ぎないという現実がある。

小林 絶望的な話が続きますね。

飯田 うん。それを表面しか見えてないから、ハイテクだと思い込む底の浅い政治も、非常に情けないと思います。

小林 でも事故が起きた当初は、海外のメディアでも、日本の原発というのは世界一安全と言われているのにその原発が……みたいな報道がありましたよね。

飯田 ええ。

小林 でもそんなことはないわけですね。

飯田 そうですね。

小林 つまりハリボテの部分でそう見せていくから、海外のメディアも日本の原発技術は優秀だとそう思い込まされているところがあるけれども。飯田さんの今まで経験したことから言えば決して優秀ではないということですよね。

飯田 絶対ないですね。だから、アムステルダム大学の教授をやっているカレル・ヴァン・ウォルフレンが書いている『日本権力構造の謎』(早川書房、1990年)という本はまさに日本の構造を的確に評価した本でした。ウォルフレンはその本で「日本はちゃんとできているんだ」という海外向けのスポークスマンがいる、と指摘していました。